吉田 彩花 Ayaka YOSHIDA
Translation↑
「岸む音/際の上 Murmuring Shores / On the Brink」」
2024.12.14 sat. - 2025.1.10 fri.
尾道市立大学美術館
共同キュレーター:
稲川豊 & ワン・ルオビン
参加アーティスト:
ウン・フイ・シェン|リュウ・リリング|西村有未|スサンナ・タン|津川奈菜|吉田彩花
自然の中からロゴスを見出す瞬間、自然に対する仮借ない要請、山の神との深刻な交渉、情報縮減しようとするけどフィジカルに邪魔される、世界の不確かさ。
世界の不確かさ / What should have been
ミクストメディア
3つのタイプの作品から構成

石の重さでしわのついた
実寸大の会場マップ(配布)
B3、1794枚

写真群

石と箱(入れ物と中身)




















制作過程のシワつけの様子
自然に対する仮借ない要請 / Uncompromisin demands on nature
箱に入って大きなブルーシートを折 りたたむパフォーマンス



配布された会場マップの右下の番号を入力すると、その上に在った石の写真を検索できます。(0〜1794の間の番号を入力してください)
/1794
Error

いないいないばあをしているとき、幼い赤ちゃんは、相手の顔が見えなくなることを実際の不在に近いものとして経験していると考えられている。しかし成長するにつれて、私たちは見えなくてもそこに存在し続けていることや、一時的に離れても再び会えるということを学んでいく。昨日までそうだったから、前回そうだったから、と言うだけの理由で、明日もそうだろうと信じてしまう。
テンプル・グランディンは『動物感覚』のなかで、大人は抽象化や類型化によって未知を素早く理解し対処する、と述べている。日常は言語や制度、経験によって「理解できる世界」として現れる。一方、動物や自閉症の人、小さな子どもは目の前の出来事を個別具体のものとして知覚する。そのため、彼らの世界はひとつひとつの出来事が独立していて、つねに新しく、そして恐ろしくなりやすい。
この本ではさらに、世界を扱える大きさに整理する脳の働きを「代償を伴う能力」としても書いている。私たちは、名前を与え、分類し、予測することで、不安を減らしてきた。しかしその過程で、視覚や聴覚の異常にすら見えるほどに、私たちは世界の細部に気づかなくなっていく。
本には、学校の建物のネジを一つ一つ触らないと気が済まない自閉症の男の子の話が紹介されている。彼の行動を、介助者はユーモアを交えて「校舎が頭の上に崩れ落ちないように確認している」と表現した。
この話を読んで、アーティストの田中功起の本を思い出した。ある日、彼が海外の電車で見かけた男は、つり革に一つずつ体重をかけて確認し、最後にようやくシートに座った。シートは特に確認しなかったらしい。筆者はこの男のことを「世界の不確かさを見せつける人」と呼んでいた。誰もしっかりと確かめないまま使っているつり革――それが本当に体重を支えうるのかどうか、私たちは実はわかっていない。
概念化によって、私たちは世界を「わかったもの」として扱うようになる。誰も確かめないままつり革につかまり、昨日までそこにあったものは、明日もそこにあると思ってしまう。そうして私たちは、世界が本来どれほど不確かなものだったかを少しずつ忘れていく。
グランディン, テンプル, & ジョンソン, キャサリン. 『動物感覚――アニマル・マインドを読み解く』. 篠儀直子訳, NHK出版, 2006年.
田中功起. 『必然的にバラバラなものが生まれてくる』. 赤々舎, 2013年.